霞猫

ゲーム

2025-05-13

最初は誰かが作ったゲームだった
街や大地の模型のようなものや
沢山の設定が決められていた
正しい形を描き記すためには
それは必要なことなのだと
それを作った創造者は語った

本棚がたくさんある部屋で
沢山の人の半透明の幻影みたいなものが
行き交いをしている 
その中の一人が連れ去られた賢人らしい

彼を救う事が目的で
私は知恵と勇気と根気を振り絞り
長い迷宮の旅を踏破し
色々な扉を開きそこにたどり着いた

その中のひとつイルカの影が老人の姿に変わり 
騙すつもりはなかったと笑う
見つけてくれてありがとう
私は自殺をするよと

結局私は誰も救えず

賢人の残した情報で私は世界の鍵となる場所を知る
そこには大きな石柱のようなものがあって
世界が正しくあるためには常に左右にぐりぐり動かしていないといけない

雨の日も風の日も
私はそれを知ってしまったので
その場に留まり回し続けることにした
そこに座り両足を使ってぐりぐりと
石柱を動かし続けることにした

長い年月が経ち
昔は野原のようだったところも脇に道ができて
スマホを見ながら自転車で走り抜ける若者や
トラックなどの車を見かけるようになった
高速道路なんて大きな橋のような道ができた時には驚いたものだ

私はその間ずっとここにいたが
最近は流石に身体が衰えてきたことを知る
まさか私が長い年月
こんなところで座り込んだまま
外で寝て過ごすなんてね

物好きな若者が一人
彼は私の姿を見ることが出来るようで
時々訪ねてくるようになった

もう私には足が無いので
座った姿勢のまま稽古をつける
手だけを使った拳法のようなものだ
衰えた体ではあるが
まだまだ若い人間に力負けはしない
若者は私に勝てないが
あまり悔しそうでもなく
何度でも会いに来てくれる

私も何かを彼に残すのだろうか
寂しそうに笑い自殺をした賢人のように

私にはまだ
その感情が何かは分からないけれど
手探りで触って形を既に知っているかのように
それがなぜか正しいことのようにも思えた

痩せ衰え
今では両手だけが残った姿で私は今日も
ぐりぐりと鍵を回し続けている
この世界の何処かで
普通の人には見えてはいないはずなんだけれどね