霞猫

喪失で紐付けられたアルバム

2025-05-13

ゆっくりと流れる街並み
ぼやけて滲む光
私は宛もなく歩く
強い肩で放り投げられたボールの気持ち
パチパチと明滅する古い街灯
陽炎ゆらめき星は項垂れる

悲しくて膝を折り
落下傘の影の下に
希望のように映るものは最果て
地面に大きな穴が空いていて
底から何か悪いものが這い出てきそう
私はここよ
私の首はここよと

人の輪郭をした無遠慮に
頭の中を触られているような
吐き気のする往来
手を振るミスターアンドミセス
菓子をボロボロと零し
ティンカーベルかスーパーマンを
待ち焦がれているのかもね

奇跡が起きて
この世界が消えてしまえばいいのに
奇跡は再び望まれた時に訪れる
ゆるいロープで罠を掛けて
あなたは捕縛を恐れない公転する勇者

アイアンハート
漂流する氷の山
まるでクライミングのように夜空に足がかかる
翼の重みの分だけ地面が沈む

あなたの好きなものを教えて
あなたが好きなものを語る時の顔を見せて
お喋りな口を塞ぐ小さな両手は
甘いお菓子の匂いをさせて
嘘つきを見つける事を諦めた
痩せた悲しい手に触れる
瞳の中で炎が揺れる
その炎で焼き付けられた影は
戯けたように手足を揺する

宇宙の星に名前をつけたり
空想の生物を考え合ったり
そんな些細な一つ一つの出来事が
輪郭を確かめるように重なっていく
黒く濃く影は浮かび上がる

あなたは船
私は青空で
雨を降らすことができればいいのに
カラカラに乾いたあなたは
甲板から目に見えてひび割れて行き
いつかぽっきりと折れて
海に飲み込まれてしまうだろう
あなたの消えた水面を
揺れる水面の不規則な運動を
思い出を上書きするように胸に刻む

消えゆく時
それが一番美しいと
力尽きて落ちる線香花火を見て語るように
首をもたげる枯れた向日葵のように
灰になって消える吸血鬼に片思いをする少女のように
温かいスープを残して消えた村人達のように
なんて身勝手で残酷なんだろう
少しでもこの世に残りたいのは明確なのに
そうだろう?
肩を揺すって死体を起こそうとするように君も
それは喪失で紐付けられたアルバムみたいだね

大きな穴から這い出したものは
首を落とせと私にねだる私
消えゆく時
それが一番美しいと
聞き慣れた声で語る
暗く落ち込んだ眼窩
涙も出ない
喪失で紐付けられるように
あなたの中に残るように
あなたの命に傷が残るように