雪の中で
2025-05-13
雨が雪へ変わり
優秀な猫のように屋根から滑り落ちる
冷たい地面
鈍い 振動が聞こえて
大きな牛が倒れるような
父親のふりをした影がカーテンの向こうに立っていて
布越しに私に話しかける
夢とは 掛け違えたボタンのようなものだ
そして望みは人の心にかかる鍵のようなものだ
私は うわ言のような綺麗事は聞きたくないから
感情を手放したままカーテンを殴る
真っ暗な部屋
あなたの手を探す
指と指が触れ合い かすかに震え確かめるように
握った
この部屋には私しかいないのに
誰の手なんだろう
お前の名前は何だ
上の空の月は見てる
彼の口は動くけれど名前が聞こえない
少し困ったふりをするけど
それは別に重要な事ではないね
終わりは雲泥の中で来賓のように控え
効果的な挨拶のタイミングを
悪魔の子供のような顔をして待っている
欠けた奥歯を吐き出せ
曇った笑顔でピース
焼けたビデオテープの映像のような
黒で欠けた揺れる景色
団地から出てくる
複数のぼやけた人影
思い思いに気の利いた鈍器のようなものを
それぞれの手に持って
迷うことなく私の扉の前まで来るだろう
合わない鍵を捩じ込もうとする姿は
恋のように純粋な落ち度を 隠そうともしない
それはまるで 誰かが落とした小銭を目で追うような惨めさを纏い
ドレスコードはそれでしたと言うように
図々しく私に手を伸ばすのだろう
深夜に本当に欲しいのは揺り籠さ
それでも 踊る阿呆は忙しそう
ペンダントの中で笑う家族と大型犬
遠い祖国 カーステレオからオールディーズのくぐもったギター
現代の夢は昼夜問わず 喧々諤々の大らかさで
カーテンの向こうに朝日は出ているか?
さっき殴った拳が痛くて開けられないか?
あなたで百人目のくす玉が頭上で割れる
折り紙の紙吹雪と紙テープ
少し遅れて鳩も飛んだ
もう父親のふりをした悪魔はいなかった
カーテンと窓を開けて 鳩を逃がしてやると
一度も振り向かずに飛び去って行った
部屋の中に陽が差し込み
思い出したように色が戻っていく
暗闇で手を握ってくれた彼もいなかった
少しひきつった顔で笑う