空洞の季節を越えて
2025-05-13
季節が去り
取り残されぬように
ピントの揺れる草原の海
痩せた空の骨
熱に浮かされたように雲の数を数え
頬を赤く染めてため息をつく
悲しみが少し 未来への期待が少し
絡み合う曇り空のような
カプチーノを かき混ぜる
マドラーは濁ったガラス
空気の泡がガラスの中で一つ
あなたの顔が湾曲して見える
乾いた青
唇は枯れ草をふくように
解き放たれた気球のように
心は
少し逸らしたあなたの横顔
遠くを見ているようで
僕は同じ景色を探すのだけれど
見つけることができず
わざと羊を囲いから一頭逃がすように
心を砕いて捨てる
気ままに飛ぶ白い鳥を見ているの?
遠くの海原のきらめきを見ているの?
真昼の空に溶け込む 白い月を見ているの?
頬杖をつくように太陽は雲を従えて
眩しくても見上げれば
瞼の裏に溜息のような残滓
あなたの指に触れて
あなたが夢を語って
相槌を打つたびに距離が離れていく
映画館で見る スクリーンの光のように淡く
羽音すら無い空想の蝶のように虚ろで
瓶に詰めて持ち去ることも出来ない
手で掬う水は残らない
音も無く照明が灯り
一人ぼっちの客席が浮かぶ
カラカラとフィルムが回る音
目の前で涙のように幕が降りると
もうここに居場所は無いと知らされる
愛は片道で
行く道は雨が降っていて
振り返っても同じ帰り道は見つからない
愛は砂漠で落としてきたから見つからない
そう言えば許されると思っているんだろう?
愛は砂漠で落とした
1粒の宝石のような
心の空洞の中にストンと落ちるような
僕を逆さにして 揺さぶれば
何か音がするの?
音がしたら それは
最後の希望になるかもしれないね
泣いていたかもしれない
あなたはあの時泣いていたかもしれない
僕が必死で風景を探す
ふりをしていた時
屋根は墓標のように並び
あなたの時計はついに動き出した
僕は顔を少し逸らして気付かないふりをした
立ち去る足音
離れていく
夢のような日々は
ある日突然覚めて消えるまでが夢
涙は出なかった
ただ空洞が
人ひとり入って隠れられるくらいの空洞が
岩肌で風が軋むような音を立てた
人間の輪郭をした空洞の中
一粒の宝石
残りの命はそれを探すために
何者として死ぬのか
僕は何者として死ねるのか
穢れのない気流に巻き上げられて
一瞬で見失うような
先を歩く未来の
気まぐれに揺れる尾のような
曖昧なその全てを今は
少しだけ理解しようと