霞猫

ニャッシーVSメカニャッシー

2025-05-13

マッドサイエンティストラボの
片隅で産声をあげた
そいつの名前はニャッシー 
世を恨む博士の作り上げた
孤独で孤高な兵器

胎教は博士の声で「ふざけた人間どもに鉄槌を」

「ニャッシー レーザービームで焼き払え
      汚れた心は浄化できない
      誰かがやるしかないのだ
      お前の涙は心の汗だ」

丘の上 町が見渡せる草原
車椅子の少女は手術を明日に控えていて
おばあちゃんが付き添って花を摘みに来ていた
しかしそこで
殺人犯の逃走劇に巻き込まれてしまう!

ニャッシー レーザービームを撃てば
      あの善良な家族も
      巻き添えになるぞ
      撃てない「撃て!」

その日、生まれて初めてニャッシーは博士の命令に背いた
人前に姿を現すことを禁じられていたのだが
おばあちゃんと少女を助けるために飛び出した
レーザービームは照射角が広いから撃てなかったのだ
しかしニャッシーの小さな体当たりでは 大人の男を倒すことは出来ずに
善良な何の罪も無い家族もろとも
逆上した犯人に皆殺しにされてしまう

「…ニャッシー、ニャッシー」
「聞こえるか」
「お前にもう一度チャンスを与えよう」
「闇は何色を足しても闇なのだ」
「洗い流してしまわなければ、キャンバスの他の色まで犯されてしまうぞ」
立ち上がれ、メカニャッシーよ!
感情の無い浄化の戦士よ!

ニャッシー 世界を変えてくれ
      地平線まで焼き尽くしてくれ
      ああ でも良い人もいるんだぜ?
      ああ でも外見は皆似てるから
      君からみたら見分けがつかないかな
      (これじゃ殺人犯と変わらないぜ)
      泣いているみたいな月が地上の炎で照らされて
      赤く浮かび上がる
ニャッシー 航空隊の戦闘機が編隊を組んで迫る
      一斉に放たれる空対空ミサイル!

おばあちゃんがコロコロと車椅子を押す ゴロゴロと喉を鳴らす自分
誰かの膝の上 気持ちよくて 今にも眠ってしまいそう 暖かい手が体を撫でている
最期に見たのは 少女の優しい笑顔

目覚めた!!!

メカニャッシーの周りに突如、積乱雲が生じ
悪戯な運命がローリングサンダーを始める
この世から解き放たれた命を再び
この世に呼び戻した!

ニャッシー
正義の心で
今再びやり残したことを
悪はどこだ 悪はどこだ 悪はどこだ!
俺か!俺か!破壊の限りを尽くしたのは俺か!
型にはめられた枠にはめられた
俺の意思じゃないと言っても
聞いてもらえないよね
仕方ないね仕方ないね
もう こうなっちゃったら
仕方ないね

ニャッシーは一人 
東の空を目指した
もう誰も知っている人もいなくて
一人ぼっちで

自分が正しいと思ったことをやっても 
それは誰のためにもならなかった
博士も名前も知らない少女も
どちらも最後は悲しそうな顔をしていた 

ふと 彼らの表情を思い出し
クリクリの黒目から一筋の涙が落ちる
夕焼けは傍観者 
爪を立てようか

なんてね

愛は誰かが受け取ってくれるから愛なんだ
胸の中で
空っぽの大きな箱の中で
取り残された 
枯葉をゆするような
寂しくて悲しい気持ちに
押しつぶされそうだ

誰もいない 小さな島を見つける 
そこに降り立つ ニャッシー 

ゆっくりと太陽が追いつき 
そしてゆっくりと追い越していく

愛は
きっと愛は
空っぽの心を揺さぶるような 
そんな素晴らしいものに違いない 違いない 違いない 
クリクリの黒目から一筋の涙が

奇跡で戻った命は
奇跡が終われば儚く消える
最期に見たのは少女の

「よく頑張ったね
それで良かったんだよ」
もう独りぼっちじゃないね